タイトルだけ見たら何の映画か分かりませんが、ジャンルとしてはホラー映画です。
以下ネタバレも含みますのでご注意を。
この映画は新人映画監督の2作目でかなりの低予算なのですが、「パルプ・フィクション」のクエンティン・タランティーノ監督が「こんなホラー映画は見たことがない」と絶賛したことで話題になった映画です。
あらすじ
19歳のジェイはある男から“それ”をうつされ、その日以降、他の人には見えないはずのものが見え始める。動きはゆっくりとしているが、確実に自分を目がけて歩いてくる“それ”に捕まると確実に死が待ちうけるという。しかも“それ”は時と場所を選ばずに襲ってくるうえ、姿を様々に変化させてくるのだ。いつ襲ってくるか分からない恐怖と常に戦い続けながらジェイは果たして“それ”から逃げ切ることができるのか!?誰も体験したことのない<超・新感覚>の恐怖がずっとあなたに憑いてくる―。(公式サイトより)
ストーリーを超簡単に説明すると、ターゲットを殺すためにずっと歩いて追ってくる謎の人物「それ」(it)から逃げる話です。
歩いて追ってくる「それ」
「それ」は人の形をしていますが、あらゆる人の姿に形を変えて迫ってきます。ある時は裸の娼婦・ある時は2mを超える大男・ある時は知り合いの姿をしています。そして狙われているターゲットにしか姿を見ることはできません。
斬新なのは歩いてしか追ってこないこと。ホラー映画おなじみの、暗がりに潜んで急に襲いかかってきたりはしません。
ただ、本当に一直線に歩いてくるだけではありません。(例えばターゲットとの間に壁があるからといって格安ロボット掃除機のようにずっと引っかかってることはない)ちゃんと入口を見つけて入ってきます。必要なら窓ガラスも割りますし、ドアもノックします。ときには屋根の上にのぼってまで入り口を探すことも…。
「それ」に狙われる条件
「それ」に狙われるのはたった一人だけ。そして、異性とセックスすることでターゲットを相手に移すことができます。しかし移したら万事解決…ではなく移した相手が「それ」に殺されたらターゲットの順番は自らに戻ってくるのです。なので、次のターゲットにも説明してちゃんと逃げてもらわなければなりません。
- 「それ」は歩いてどこまでも追ってくる
- 「それ」のターゲットは異性と寝ることで移すことができる
- ターゲットが死ぬとひとつ前のターゲットに戻る
- ターゲットを経験した人間にしか「それ」は見えない
今までにないスローな恐怖感
ホラー映画といえば、いないと思ったところから突然出てきたり、急に迫ってくるところに恐怖(というか驚き)を感じるものがほとんどです。
しかし本作は恐怖の対象が徒歩移動なので、暗がりから飛び出してきたり観客をビックリさせるような動きは基本的にしません。基本的にただの歩く人です。映画を通じてビクッ!とするのは3回くらいでした(個人差ありますが)
徐々に近づいてくる「だけ」の恐怖感は今までホラー映画では見たことがありません。
海外版「志村うしろ」
志村けんに悲劇が迫っているのにそれを知っているのは観客だけで、舞台上の志村けんはまったく気づかない。「8時だヨ!全員集合!」でおなじみだったパターンです(ちなみに世代ではありません笑)
この映画ではリアル「志村うしろ」を楽しむことができます。
狙われたジェイは時間と距離を稼ぐために友人の別荘を訪れます。その別荘の近くの浜辺で座ってのんびりしているときに、後ろから明らかに怪しい女性が歩いてくるシーンがあります。周りにいる友人からは見える角度ですが、ターゲットであるジェイにしかその姿は確認できないので、観客だけはその女性が「それ」だと気づきますが、ジェイは振り返りもしません。
かなり遠いところから接近してくるので「後ろ見てええええええ!!!」とめちゃくちゃハラハラできます。
他のシーンでも背景を映して歩いている人を効果的に入れているので、通行人が映るだけでちょっと怖くなるという新しい怖さを体験できます。
「それ」とは何なのか?
一度感染したターゲット以外の人には見えず、徒歩でターゲットを殺しに来る「それ」。
死の恐怖やエイズなどを表現したものではないかと考察されていますが、監督自身がインタビューで否定しているようです。
てっきり「それ」は”霊的なもの”で捕まったら魂を吸いとられるのだと思いきや、髪の毛を引っ張って振り回したり脚を折ったりと、思いっきり物理的な攻撃をしてくるんですよね。しかも銃で撃てばダメージを受けるし見えない人からの攻撃も食らう謎の存在です。
クライマックスはグダグダ
クライマックスでは、ジェイは友人たちと協力して追ってくる「それ」を迎え撃ちます。
周到に準備し、いつ追って来るかわからない時間はハラハラしますが、戦いが始まってからがとにかくグダグダ。
作戦は「”それ”をプールに誘い込んだところでコンセントにつないだ家電を放り込んで感電させる」というものだったのですが、なぜかジェイはプールに入ったまま待機し、「それ」が来てもプールから上がろうとしません。
「いや、ここからどうすんの!?」と思っていたらプールに入って素早く動けないジェイに対し、「それ」が家電を投げつけて見事に利用されてしまいます。しかも家電をプールに入れても感電しないのでそもそも感電作戦は失敗。ジェイはプールに入ってるからすばやく逃げられないという始末。とっさに友人のポールが見えない「それ」に対して銃を撃ちますが、別の女友達が被弾。
もうグッダグダです。
このあたりは10代の若者がやることなのでリアルなのかも。
謎の多いラストシーン
「それ」の正体もさることながら、ラストシーンは疑問を残します。
「それ」をプールで撃ち殺した後、血が水の中に広がっていくような、憎悪がさらに膨張しているような、なんとも言えないシーンがクライマックス前のシーンとしてあります。
その後ジェイは幼馴染のポールと関係を持ち、手をつなぐ二人の後ろに誰かが歩いているというシーンで終わります。「それ」は死んで、二人の後ろに歩く人影はただの人なのか?「それ」は生きていてまだ追ってきているのか?
その謎は明かされないまま幕がおります。これは映画を見ただけでは判断できず、こういった考察できるポイントも残されているのがまた面白いです。
おわりに
よく「全米が震撼」という煽りを見かけますが、怖さだけで言うと大したことはありません。
しかし「歩いて来るだけ」という設定が作品全体の人間に怖さを持たせ、「それ」がいないときでも恐怖が持続するという独特の恐怖感がありました。
そして個人的な希望として、この設定をぜひリメイクしてほしいです。
感染させる方法で心理戦的な描かれ方をしたり人間の汚い部分が見える描き方をすることもできると思うので、というか本作はこの「移し合い」の設定をぼやかしていた気がしました。例えばデスノートだとノートに触らせることで死神が見えるという設定を使って様々な駆け引きが行われていました。いろいろな作り手がこの設定を見て映画を作ってみてほしいです。
個人的には、「それ」に狙われることと引き換えに異性にモテたりお金が入ってきたりと見返りがあったり、長く見返りを貰うほど追跡を解除するのが難しくなったりっていう設定を追加しても面白いんじゃないかなーと思いました。そういうややこしさがなかったから分かりやすく楽しめたのかもしれませんが。
ホラーやパニック系は割と好きなんですが、恐怖ではなくビックリするだけのものや、とにかく惨殺するだけのグロいものはちょっと苦手なので、そういう方にはぜひともお勧めしたいです。ただ先ほども書いた通り、ホラー映画好きには少し物足りないぐらいかもしれません。
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